親子のベルト


先日病院に行った時、連休明けという事もあって無茶苦茶混んでいた。総合病院の連休明けは凄まじい。待ち合いで病気うつされそうだ。

しかし、一角だけやたら空いてる場所があったからヨイショと腰かけた。特に何も考えず空いてるから座ったんだが、何故空いてるかがすぐにわかった。

そこには車椅子に座っている婆さんと、介護をしてる多分娘さんと思われる人(顔が似てた)が居たんだが、婆さんがとにかくうるさい。

ずっと、

「ねぇ、ねぇ、ねぇ、まだなの、ねぇ、ねぇ。」

と娘さんに尋ねている。娘さんが、
「あそこに番号が出たら行くのよ。」
と優しく答えても、ずっと

「ねぇ、ねぇ、ねぇ、早く、ねぇ、ねぇ。」

としつこく聞く。しかもかなり声がでかい。おそらく脳をやられちまってるのだろう。

俺は正直「うっせぇなぁババア。」と思ってしまったのだが、俺とほぼ同時にその近くに座った人が露骨に嫌な顔をして立ち去った時、娘さんは心底申し訳なさそうな顔をして、「あ、ごめんなさい。」と謝っていた。謝られた人は返事を返すこともなく立ち去った。

俺も席を移動しようかと思っていたんだが、それを見て留まる事にした。

婆さんの独り言は続く。

「ねぇ、ねぇ、ねぇ、7番に入るのよ。ねぇ、ねぇ、ねぇ。」
驚いたのは娘さんは面倒臭そうな素振りも、嫌な顔一つする事なく、優しく婆さんに一言一言返事を返していた事。
50分程待たされてたんだが、その間ずっとだぜ?

あぁ、これが介護か。これが親子か。

俺は自分が出来ないことを出来る人はどんな人でも心底尊敬する。子供がギャアギャア泣いてると、他人んちの子供なら何も言わないが自分ちの子供なら、
「うっせぇ黙れ。」

って言ってしまう。子供だから仕方ない、病気だから仕方ないっていう考えは、俺の場合は何故か身内にはあまりできないらしい。

いつの間にか婆さんの独り言は全く気にならなくなったから、まぁぼーっとしてたんだが、40分位待った頃婆さんの独り言に変化が出てきた。

「ねぇ、ねぇ、ねぇ、ごめんね、ねぇ、ねぇ、ねぇ。」

それからは婆さんは、ねぇ、とごめんね、を繰り返す。娘さんはただただ

「いいのよお母さん。」

と返す。

そうだ、婆さんだって好きでこんな状態になった訳じゃないんだ。
脳をやられちまった人の中には大体すぐまた戻ってしまうのだが、ふとしたきっかけで正気に戻る事があるってなんかの本で読んだ事がある。
あとはまだ完全にはやられてなくて、狭間をさまよって苦しんでる人も結構多いのだそうだ。
娘さんの態度を見ていれば、婆さんがどれだけいい母親だったのかってのはよくわかる。

形あるものは必ず壊れてしまう。
大切な人が壊れてしまうのは、やっぱ見たくないなぁ。そして、自分が壊れたら家族にはそんな思いはさせたくないなぁ。

俺は最初にただうっせぇなぁとその場を立ち去らなくてよかったな、と思った。




全然関係ないけど、さっきうんこしたらベルトの穴が二つも縮まりました。うちの会社のトイレは超ハイテクだから、省エネの為かうんこしてる時しばらく動かないと電気が消えます。

今日は四回消えました。

あまりに大量な我が作品をこのまま流してしまうのは忍びなかったのですが、形あるものは〜の精神で、

「お逝きなさい。」

と声をかけて流して個室を出たら、丁度上司が小便してて、
「お前糞流すときいつもあんな事言ってんのか?」

と笑われて、恥ずかしくて今死にたい。


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