牛歩


朝、ベンチに腰かけてボーッとしてみた。

都内ほどではないが、やはりこの時間は人の通りが激しい。

皆朝っぱらから走り回ってる。
ご苦労様です。

俺は残念ながら一生治らない病気を持っている。

その病気が新たな病気を呼び、その病気を抑える為の薬がまた新たな病気を呼んだりして今に至る。

一生治らないと医者に宣告された時は他人事としか思えなかった。

足の骨が腐っていると医者に言われた時は、思わず笑ってしまった。

余りにも現実味がなかった。

病気の恐怖は徐々に体に現れ始めた。怖かった。

薬で抑えるしかない、しかしその薬は劇薬で副作用が半端ない。しかし飲まなければ全てが終わってしまう。

毎食後、おびただしい数の薬を飲まないといけない。

寝る前に眠剤を飲まないと寝れない。

そんな生活を死ぬまで続けなきゃいけない。



めんどくさいや。もう死んじゃえ。

と思ったときは、自分で起き上がる事もできなかった。結局何もできなかった。



よくもまぁあのオムツ状態から四年やそこらでここまで復活できたなぁ。

あれから同じ様な病気の人達と知り合って、色んな知識をわけて貰った中に 牛歩 という言葉があった。

一歩一歩のんびりでもいいから、確実に前に進もう。余裕を持ってゆっくり進めば焦って失敗する事もない。

よし、

今日の遅刻の言い訳はこれにしよう。

大事な打ち合わせが10時からあったけど、今からだとどうあがいても間に合わないしな。

俺はベンチを後にして1月の空気を胸一杯に吸い込んで、清々しい気分で会社へ向かった。

と、相手から電話が。

「すいません、電車人身事故で止まっちゃいまして約束の時間に間に合わなそうなんですよ。」

「いやいや、遅れようがなんだろうが、こっちにも後の予定があるんですよ。大体時間ギリギリで来るのがおかしいじゃないですか。大事な案件なんだから普通はある程度の余裕持って動くべきじゃないんですか?何時になったらお会いできるんでしょうか?」

「はっ、申し訳ありません。」

はっはっは。これぞ社会人。歩く矛盾王。何が牛歩だ。偉そうな事言って、俺なんかまだ出勤すらしてねぇぜ(笑)

とりあえず今回の主導権はこちらがいただいた様なもんだから、今後楽だわ。

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