風俗店で働いてみた
〜完結編〜


二人が入ってる間、休みがなかった俺とYは、二人が連休を取って職場復帰したあと交代で休んだ。

そしてすぐ俺はもう片足の手術に入った。
入院生活ももう慣れたもんだ。しかし、思ったより体力がなかった俺は全身麻酔ができないほど衰弱していた。

手術は腰椎麻酔で行われた。

全身麻酔なら寝て起きたらもう終わっているんだが、これは違う。手術中ずっと意識があるのだ。もう最悪。

足の骨が斬られてる音がリアルに聞こえる。そんだけの痛みを感じなくさせる麻酔を射たれてるからさすがにぼーっとするが、しかしもうほんと二度と嫌だ。フルチンだし。

手術は無事終わったが、凄まじい疲労感だった。
しかしこれでもう10年くらいは足の手術はしなくていい。一段落だな。



しばらくして退院。

同じ街の駅の反対口に合法ピンサロの系列店を出すことになった。しかし、その準備期間中、名前と経営者の名義を変えた個室ヘルスにまた警察がきた。もはや顔馴染みの刑事に警告を受ける。次の日出頭した俺は、誓約書を書かされた。もう、無理だ。次は捕まる。

「もう、そろそろ潮時ですよ。」

と俺はオーナーに言った。

都内の似たようなヘルスは都知事が歌舞伎町を浄化し始めてからぼこぼこ摘発をうけ、姿を消していた。
うちはよくもった方だ。

だからこの店というか、違法ヘルスからは完全に撤退することにした。

不動産屋に鍵を渡す前に、性風俗店特有の匂いがしみついた店に寄った。

後輩に誘われ何年間か居た店。まさかこんな長くいることになるとはな。

普通の生活では考えられない経験を沢山した。壁の染み一つ一つに思い出がある。あ。この染み俺じゃないや。

ありがとう。なんだかんだで楽しかったよ。

と、店を後にした。周りの店にも挨拶に行き、ここでの仕事は完全に終わった。


そのすぐ後、捕まった従業員の片割れ、Kがオーナーと対立。自分の女を連れて出ていった。
男子従業員が三人となり、なかなか大変だったがなんとかギリギリ回していたら、オーナーがもう一店舗出すと言い始めた。
従業員を増やすという事を前提に、都心にもう一店舗出した。
さすがに三店舗目の同じ用な店を出すのは楽だった。今までの半分以下の期間と労力であっという間に開店にこぎ着けた。

しかし俺の身体は、また超多忙になった仕事についてこれなくなっていた。

これではまた繰り返してしまう。

この頃、また別の会社の役職を兼任していた俺はそろそろ風俗から離れる時期だな、と思い始めていた。

新しい店舗のオープンで人手が足らなくなってしまったから、オーナーは自分の彼氏を男子従業員として使い始めた。その彼氏は友達を連れてきた。二人とも客商売関係は全くの素人。

その彼氏がオーナーの威を借りて幅をきかせはじめるのに時間はさほどかからなかった。
徐々に謙虚さがなくなる。自分の意見を押し通す事が目立ち始めた。

彼のスタイルは

今これだけ新規の客が入ってるんだから別に古くからの常連なんか必要ない。

というスタイル。ちゃんちゃら可笑しくてへそで茶が沸く。

今客が入ってるのは、今まで俺らがやってきた結果なんだぜ。というのを、俺は敢えて教えなかった。
オーナーは素人の彼氏に好き放題やらせるようになり、俺の心は急速にこの仕事から離れていった。

俺は人手が増えて楽になった分、もう一つの仕事に力を入れていた。

営業職で毎日昼間は販売に勤しみ、夜は風俗店代表取締役として働く日々が続いた。

俺がこの昼の仕事を始めたのは、ある出会いからだった。

前々から面識はあったとある会社の社長が、入院中に見舞いにきた。
ライバル会社がどうしても欲しい。勝算はある。しかし、やれる人間がいない。
どうだろうか、やってくれないだろうか?

俺は引き受ける事にした。

一般社員として入社した俺は、まず皆と打ち解けて会社に不満がある人達を集めた。そして、条件のいいライバル会社、つまり俺の依頼主の会社なわけだが、そこを紹介した。今より手取りで10万上がると言ったら断る奴などいない。特に会社に不満がある人間は、だ。

ライバルや上司達が条件のいい同業に引き抜かれていったお陰もあり、トップの成績を維持できた俺は入社4ヶ月で俺は本部長にまで上れた。

次の月、常務が引き抜かれた。
これで俺の上にはもう一人。社長しかいない。

ほどなく社長が逮捕された。
覚醒剤、恐喝、詐欺、脱税。もちろん俺は逮捕されるのを知っていた。

俺の依頼主が持っていた武器はこのネタだった。恐喝と詐欺は後から発覚した身から出たサビだった。

トップ不在の家族経営でもなんでもないこの会社は潰れるしかない。しかし、ただ潰れるのとは訳が違う。

俺はその頃既にこの会社のほぼ全てを把握していた。

俺は建前上一度トップに立ったが、その月の末に不渡りを出して会社を倒産させた。残った従業員、顧客の全てをライバル会社である依頼主の元へ流した。
俺には副社長のポストを用意してくれたのだが、辞退した。興味のない仕事をだらだら続ける気はないし、はっきりいって自分よりやり手の人間と組むのは嫌なのだ。仕事のパートナーは自分より多少劣っていてくれないとうまくいかない。

俺は表向きは倒産した会社の従業員を無職の危機から救った英雄だった。しかし、真実は違う。
会社の倒産が決まった時、泣いている従業員がいた。

何人かはライバル会社に行く位なら違う職につきますよ。と姿を消した。

これが俺がやったことのもう一つの結果なんだな。と考えたら、やはり続けていくのは心苦しかった。

逮捕された社長はかなり嫌な奴だったし、逮捕されて当然な人間ではあったが、それでも罪悪感はあった。彼は自己破産した。

俺にはその時、やってみたい仕事があった。
24時間営業の、夜の商売の女の子専門のエクステ屋。
人脈はあったし、技術もある。既に仕入れ先も確保していた。
俺はなるべく風俗の方に力を入れないようにした。

ますますオーナーの彼氏がでしゃばり始めた。それでいい。

「MASTERさんって大した事ないですね。」

とオーナーの彼氏が言い始めた頃、俺はオーナーに辞めたい旨を伝えた。
予想通りオーナーは許可してくれた。しかし、それから退職までの間1日も休みをくれないというおみやげまでくれた(笑)やれやれ。

最期の日、オーナーの息がかかった幼なじみ含む男子従業員は誰一人として送別会も何もしてくれなかったが、俺が育てた従業員達は送別会を企画してくれた。既に辞めた女の子達も集まると言ってくれた。

が、丁重に断った。最期は一人がいい。

ビルの一番上にある店の事務所から街を見渡す。小さい街だから一望できる。

これで終わりか。結構頑張ったな俺。この歳で、この身体でよく頑張ったよな。もう少し休んでもいいよな。

一人で地元に帰ってきた俺は、馴染みのダーツバーで医者から禁止されてる酒を少しだけ飲んだ。ボンベイサファイアベースのジントニック。

自分にご褒美だ。久々の酒はよくまわった。弱くなったな俺。

俺の長い長い風俗人生は、この日で終わった。


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